




#0021 日本と韓国の外交勝利と外交敗北・・・本当の勝者は? 2015年12月28日 慰安婦問題日韓合意

それを感じ取っていたからか、朴槿恵大統領は「慰安婦問題の進展なしに首脳会談は行わない」として、日本に対して極めて強硬な態度を示しました。
日韓関係が非常にギクシャクする中、北朝鮮は世界中の反発を無視して核兵器開発を強行し、朝鮮半島情勢は悪化の一途を辿っていました。
一方で朴槿恵大統領はバランス外交と称して米国にある程度の距離を置き、中国を重視する姿勢を見せるなどします。まだ北朝鮮との関係が近かった中国に近付いたため、日米韓の3カ国による連携は足並みの揃わない状態となります。
北朝鮮が核実験を繰り返し行うなか、朝鮮半島情勢を憂慮した米国のオバマ大統領は、安倍晋三首相と朴槿恵大統領に対し、日韓関係の改善を迫ります。
すると、これまで硬直していた両国の関係に変化が見られます。2015年11月2日に韓国で開催された日中韓3カ国首脳会談の傍らで、朴槿恵大統領になってから初の日韓首脳会談が行われます。
これまで頑なに慰安婦問題に対する議論を拒否してきた日本ですが、日韓関係改善を阻む要因となっていると認識し、解決への努力をすることとなりました。
しかしこの時共同会見は行われず、内容については憶測が飛び交いました。日本では政府筋がこの交渉についての情報をメディアにリークし、徐々に概要が見えてきますが、韓国ではそういったことは一切漏らさず、謎に包まれたままでした。
韓国国民は、何かまずいことが起きているのではないか、不利な交渉が行われたのではないかと不安に駆られます。
そして2015年12月27日の局長級会議に続いて行われた28日の外相会談で、劇的な日韓合意に達します。この時は外相2人による共同記者発表が行われます。
(参考)ハンギョレ 2015/12/28
概要としては「日韓間の慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」。要するに慰安婦問題はこれをもって解決とし、以降二度と蒸し返されることがないということ。
日本政府が10億円を拠出して、慰安婦支援を行う財団を設立すること。
さらには日韓両政府が国連など国際社会でこの問題を巡って双方が非難・批判することを差し控えることとしました。
岸田文雄外相は「当時の軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、このような観点から日本政府は責任を痛感している」と話しました。
また「安倍首相は日本国の首相として、改めて慰安婦としてあまたの苦痛を経験され、心身にわたり癒やしがたい苦痛を経験され、心身にわたり癒やしがたい傷を負われた全ての方々に、心からお詫びと反省の気持ちを表明する」と伝えました。
一方で韓国の当時の尹炳世外交部長官は「両国が受け容れうる合意に達することが出来た。国交正常化50年の今年中に岸田外相とこれまで至難だった交渉にピリオドを打ち、この場で交渉の妥結が宣言できることを嬉しく思う」としました。
それと共にソウル日本大使館前に違法に設置されている平和の少女像、いわゆる慰安婦像については「日本政府が大使館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても可能な対応の方向性について、関連団体との協議などを通じて適切に解決されるよう努力する」としました。
日本政府は2016年8月31日に10億円を拠出し、これを受けて「和解・癒やし財団」が設立され存命中の元慰安婦や遺族達にお見舞い金支給されることが決まります。
しかし一部で受取拒否が起きるなど、予定通りに進まないまま朴槿恵大統領は弾劾されます。2017年5月、新たに大統領になった文在寅は、事業が中断されたままとなっている財団の解散を発表。
国内団体の反発もあって、一部の希望者には正しく支給されないまま半分以上の残余金を残して財団解散されます。
一方でソウルの日本大使館前の少女像は、韓国政府が移転を試みたものの、関連団体の反発にあい、日本政府側が要求した撤去または移転は今も行われずにいます。
文在寅政権は「この合意では真の問題点を解決できない」としながらも「日本側への再交渉は要求しない」と発表。
日本側は国家間の合意であることから「合意内容を1ミリも動かさない」として頑なな態度を貫いています。
編集所感
まず最初に申し上げたいのは、この日韓合意のもう一人の主役は米国です。朝鮮半島情勢が緊張する中、韓国は米国と距離を空け中国寄りに、更には日本との連携を拒んでいるという極めて悪い状況でした。
オバマ大統領は3カ国の連携強化が必須ということで日韓双方に強力な圧力をかけます。これがどれほど凄まじいものだったかは分かりませんが、少なくとも韓国側は突然日韓首脳会談に応じ、慰安婦問題の解決に歩を進めます。
朴槿恵大統領は11月の会談前に「今年中にこの問題を妥結することを心から望む」と自ら今年中への解決を表明して拙速妥結へと繋がりますが、これはオバマ大統領が期限を切ったものと推測されます。
北朝鮮が核と弾道ミサイルの実験を繰り返していたので、もはや時間的余裕はなかったのです。
米国は日韓関係が良くなれば慰安婦合意がどうなろうと全く関知していません。この事態で一番の勝者であり利益を得たのは米国です。
安倍首相はこれまで1965年の日韓請求権・経済協力協定、通称日韓基本条約で解決済みという立場に変わりはないが、今回の合意で慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを歓迎したとしています。
韓国の観点からすれば、日本が主張し続けてきた日韓基本条約で全てが解決済みという一点を突破できたということになります。
さらにこの合意内容には「軍の関与の下」と「日本政府の責任」の2つが組み込まれました。これは韓国が勝ち得た点ということになるでしょう。
当然これらの点については日本の保守派からも批判を受けています。わたしも同じです。これらの点については納得がいきません。
ただ、これは日韓だけの問題ではなく、米国にとって重大な問題であったからこそ、日本側はこれまでの姿勢をねじ曲げさせられたということだと理解しています。
ここが日米関係の極めて難しく日本にとって厄介な部分です。
日本の主要メディアは日韓関係の改善、慰安婦問題の解決、あとは単に安倍政権への賞賛もあって概ね良好な反応でした。それだけ当時の日韓関係は異様だったということもあるでしょう。
韓国側ではこの合意に対して大きな歓声が上がりました。特に経済界は日韓関係が改善することを期待していたため、大いに沸きました。
しかしながら合意文書が作成されず、密室外交だったこと。日本メディアから韓国政府にとって不都合な情報が次々流れ出すなどして大きな不信を生むことになります。
そもそも元慰安婦達の同意無く進められたこの合意に、関連団体や野党、反政府勢力が怒りの声を上げます。彼らにとっては日韓関係や米韓関係、朝鮮半島の緊張などは全く関係ないので周囲の事情を無視して大批判を行います。
結果的に韓国側は慰安婦問題というカードをむげに失うこととなったわけです。その原因は米国オバマ政権でした。
慰安婦問題は癒やし財団を巡って文在寅大統領がいくつか行動を起こしますが、結局のところ触れられない問題となってしまいます。
民間団体は騒ぎ続けますが、政権としては日本に対してこの問題に関して非難や更なる追及をすることはできなくなってしまいました。
日本としてはひたすらやかましく追及されてきたこの問題が、どのような形であれ解決することは、多くの犠牲を払っていますが一つ勝ち取った点と言えるでしょう。
そこで表れたのが徴用工の問題ということで、慰安婦問題の代わりにこちらを外交カードとして使っています。万一これも失ったとしても、またどこかしらからか次のカードを産み出しそうです。
日本大使館前の少女像は撤去されていません。これは韓国政府が少しだけ努力しましたが、考えてみればやっても何のメリットもないので適当に処理されてしまいました。
日本が極めて強く求めてきたこの要求は空振りに終わり、韓国側はどういう形であれ防衛に成功したと言えるでしょう。
この合意に関して誰しも一つの疑問が生じるでしょう。安倍首相は一体どのように謝罪したのか?これは韓国でも話題となりました。
合意文では安倍首相が「全ての方々に心からお詫びと反省の気持ちを表明する」として伝えられました。一体それがどのような言葉だったのか、文書化しなかったため記録がありません。
お詫びと反省の気持ちを表明したということになっている。その程度の認識になってしまいました。しかも全ての方々に?
これは慰安婦問題に対してなのかなんなのかよくわからなくなってしまいました。
当時の報道、はっきりとしたものではありませんでしたが、和解金と共に安倍首相がお詫びの手紙を送るなどとありました。
これもそもそもそういう話があったのかなかったのかはっきりしないまま、結局そんなものは書かないということになってしまいます。これにも不満の声は挙がりました。
韓国政府はこの合意の中で取り決められた、と思われますが、合意内容についての情報を一切メディアに公開しませんでした。合意に関しては韓国政府が国民に知らせたくない不都合な内容が多く含まれていたと思われます。
日本政府は次々と関係筋がリークし続けました。これはあくどいやり方と言えるかと思いますが、韓国政府は否定することしかできず、そのおぼつかない対応は韓国メディアや国民の格好の標的となってしまいました。
似たような手法は以降の日韓外交でも積極的に使われ、その度に韓国の政権を強烈なまでに苦しめることとなります。安倍外交のこうした手法の評価は各々に任せることとしましょう。
北朝鮮が度重なる核実験、弾道ミサイル実験を行い、韓国はついに米国製の迎撃ミサイルTHAADの採用を決定します。この直後、中韓関係は急速に冷え込み、禁韓令なるものが発令されて韓国企業は中国から排除されます。
こうして米国の強引な手法によって日米韓の3カ国は連携を強めることとなります。米国は欲しいもの全てを手に入れたということになるでしょう。
朴槿恵大統領の本心としては意味のない反日は早く止めるべきだったと考えていたでしょうが、世論が、そして自ら規定した路線がそれを許しませんでした。
結局この件はその状況から脱する良い機会になったということです。その代わりに中韓関係は修復が利かないほどズタズタになり、極めて大きな経済的損失を長年にわたって受けるきっかけの一つとなりました。
お〆め








中国の話を除けば、日本の方が失ったり得られなかったものが多いように感じます。今回の基本方針としては、日本が多くの面で勝利を得て、韓国が多くを失ったとしようと思いましたが、そうでもなかったですね。




わたしは朴槿恵大統領が自らの首を絞めて拙速外交をしたように感じていたんですよ。でも結局それは日本側も同じで、今まで先延ばしにしていたことを期限を切って、米国によって強引に妥協させられたというところですね。


代わりに徴用工が出てきて責め立てられるからいいじゃないかとも考えたんですが、それは足し算引き算の話であって、解決の糸口無くうやむやに終わらせられたのは痛手でしょうね。










そして・・・













